ナルシシズムについて、肯定的と否定的これら2つの側面を違った実態であるかのごとく描写することは、間違っているかもしれない。
というのも、肯定的なものと否定的なものは、いつも関係し合っているからである。
一方で他方抜きに存在することはない。
例えば、肯定的ナルシシズムについて言うとき、自尊心や自信について語っているらしいとしても、
それは単なる意味の問題であるかもしれない。
C.S.ルイスは、彼の言うところの自己中心性(self-centeredness)と利己性(selfishness)とを区別している。
自己中心性という言葉は、ナルシシズムの何たるかを十分に表現していないが、
仮にそれを暫定的な定義とするなら、「健康な利己性」というものについて語ることは、ある程度意味がある。
一方で、健康な自己中心性というものについて語ることには意味がない。
もし肯定的ナルシシズムという言葉で自分に対する自信ということをいうならよいが、
しかし、それはナルシシズムではない。
参考文献
ネヴィル シミントン (著),成田 善弘 (監訳)(2007) 「臨床におけるナルシシズム」 創元社